イノたまごラボ・あのぶる の「こんなの作ったよ!」

「イノたまごラボ」はひとり同人サークルのようなものです。今のところ同人誌は作っていませんが、ソフトウェアからイベントまで、心惹かれたものを細々と。

「Rails Girlsって何?」と聞かれたときに話していること2021

この記事はRails Girls Japan Advent Calendar 2021の15日目の記事です。

qiita.com

前回は12日目の@cobachieさんによる「「多様性」について学びたいと思ったときに読んだ本」でした。

cobachie.hateblo.jp

自己紹介とこの記事を書こうと思ったきっかけ

だいたい仙台圏でソフトウェアエンジニアをしている あのぶる と申します。
Rails Girls関連の活動だとSendai 1stと2ndのオーガナイザー、Sendai, More!の運営をしていたりします。

Rails Girls Sendai 1stのオーガナイザーをして以来、2ndの開催とSendai, More!の運営を中心として、Rails Girlsにかかわる活動をするようになって3年ほどが経過しました。ありがたいことに、その間Rails Girls Sendai 1st・2ndのオーガナイザーとして仙台のIT系コミュニティ向けに何度かRails Girlsを紹介する機会を頂いたこともあります。

最近、現時点での理解をありったけ詰め込んだ紹介資料がいい感じにまとまったのをいいことに、それをブログ記事に起こしたものを2021年版として紹介出来たらなと思って今回の記事を書きました。
Rails Girlsの活動に興味を持った方や、他の人にRails Girlsのことを説明するときに役立てていただけたらうれしいです。

改めて、Rails Girlsとは?

詳しいことはRails Girls Japanの記事をぜひ。

railsgirls.jp

どのようなものかをとても大雑把に説明すると「女性向けのRailsワークショップを中心としたコミュニティ」です。 ワークショップではプログラミングを学ぶために参加する女性(ガールズ)のプログラミングの知識を問わず、Webアプリを1日かけて作ります。

ワークショップは2010年にフィンランドで開催されたのを始まりとして世界中で開催されています。 もちろん日本でも全国各地で開催されていて、これまで18の地域で60回のイベントが開催されています。が、現時点では初開催を予定していた地域も含め国内では(というか世界的にもほぼ)開催が出来ない状況が続いています😢
来年はオフラインのイベントも開催できるといいなぁって思います。

それからRails Girlsの活動趣旨を説明する上で欠かせないのが「アファーマティブアクション」についてのお話。

アファーマティブアクション(英: affirmative action)という日本語で積極的格差是正措置と訳される考え方があります。これは弱者集団(たとえば民族、人種、出自による差別、性別により不利益を被ったと思われる集団)の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境を考慮した上で是正するための改善措置の事を意味します。
(中略)
単に女性だからという理由だけで女性を「優遇」するためのものではなく、これまでの慣行や固定的な性別の役割分担意識などが原因で、女性は男性よりも能力を発揮しにくい環境に置かれている場合に、こうした状況を「是正」するための取組です。

Rails Girls - Japanese | Affirmative actionより一部引用

これも大雑把に説明すると、「伝統的な性別の役割意識に起因するアンバランス状態を改善しましょう」ということになります。

たとえば日本の中学校のカリキュラムで男子の家庭科・女子の技術科が必修化したのが1993年のこと。それ以前にも「相互乗り入れ」としてお互いの科目を少しずつ履修していたこともあった*1ようですが、必修化して性別を問わず全員が同じ内容で授業を受けるようになったのは比較的最近のこと、戦後の歴史に限ってもおよそ3分の1程度の期間。ということは必修化最初の世代がいま40代の序盤あたりで、世の中全体として見れば「技術は男性のもの」というイメージがまだまだ強く残っていることは否めない状態です。

Rails Girlsはこのアファーマティブアクションの一環として、女性がプログラミングに触れ、親しむきっかけを作る活動をしています。

よくある誤解・Rails Girlsは男性を排除するものなのか?

その前に、前提知識の共有

Rails Girlsはコミュニティである」という説明を受けて、現時点でのイメージはおそらくこんな感じなのではないでしょうか。 f:id:thatblue:20211212001908p:plain

「他のRubyコミュニティと独立した存在としてRails Girlsが存在している」というイメージがあるかもしれませんが、実際はこちらの方がより正確にRails GirlsとRubyコミュニティのあり方を表現しているかと思います。 f:id:thatblue:20211212002250p:plain

どういうこと?と思われたでしょうか。
ここで先日のRails Girls Gathering Japan 2021での角谷さんのキーノートから。

惑星にひとつの"Rubyコミュニティ"

とあるとおり、Rubyコミュニティは地球にひとつ*2で、地域.rbもRails Girlsもあくまでそのサブセット。
かつRails Girlsは入口であることに特化したものであり、参加した女性がRails Girlsに留まるのではなくその先にあるRubyコミュニティそのものに加わることをゴールのひとつとしています。ワークショップを受講したガールズに対して「卒業生」という表現を使うことがあるのも、この考え方の現れなんじゃないかなと理解しています。

改めて、誤解に対する説明

以上を踏まえまして、「Rails Girlsは男性を排除しているのではないか」という誤解について説明を。

これからプログラミングを学ぼうとしている女性を「中心にした」コミュニティ(の入口)であることは間違いないです。が、

  • ガールズ(プログラミングを学びたい参加者)の学びをサポートするコーチは性別を問わず募集している
  • 女性と一緒であれば性別を問わずワークショップを受講できる

という特徴があります。これは「Rubyコミュニティの中から入口に迎えに行くこと」「Rubyコミュニティの外から入口に付き添うこと」は誰でも出来る、ということを意味しています。
繰り返しますが、Rails Girlsの目的のひとつはRubyコミュニティの入り口として、ガールズがRubyコミュニティの一員となる手助けをすること。その役割はRubyコミュニティにいる人・加わろうとする人であれば誰でも担うことが出来るのです。

とはいえ、そもそもとして新しいコミュニティに加わるときに不安を感じること自体は女性に限らず誰でもそうで、「自分だって最初のイベント参加はちょっとハードルを感じた」という気持ちがあるかもしれません。
ただ、女性にとって、女性であるという一点でさらに心理的ハードルが上がる*3のが現状です。このハードルを男性にとっての料理教室に例えられていた話がありました。

blog.jnito.com

女性向けのワークショップイベントをクッションとして、出来るだけそんな性別起因の心理的ハードルをなくし「ふつう(=男性と同じ)」レベルまで下げようとしているのがRails Girlsの取り組みです。一連の活動はアファーマティブアクションの一環、あくまで性別起因の追加ハードルが消えるまでの経過措置として存在していることをご理解いたけたらうれしいです。

比較的FAQその1: 「自分もこれからRubyRailsを勉強したいんだけど、一緒にワークショップに参加してくれる女性がいなくて……」

A: 「ぜひ地域.rbのイベントにご参加ください! Sendai.rbでもお待ちしてます😊」

先述のとおり、入口が違うだけで行き着くコミュニティは同じ。
私はSendai.rbの運営もやっておりますのでそちらをプッシュする形になりますが、他の地域.rbのイベントもたくさん開催されています。全国の地域.rbイベントをまとめたカレンダーもありますのでぜひ参考にどうぞ。

sue445.github.io

比較的FAQその2: 「Rails Girlsってなんで"Girl"なの?LadyやWomanじゃダメだったの?」

A: 「一般名詞としての”Girl”というより、スパイス・ガールズのイメージが強いみたいです」

こちらも実はRails Girlsのページに説明がありまして、一般名詞の"girl"の語から連想する「かわいらしさ」「幼さ」のようなニュアンスではなく、こちらのイメージなんだそうです。

www.youtube.com

多様性は巡り巡ってみんなを幸せにするはず、きっと

先述の技術・家庭の授業の話で言うと、私はどちらの科目も必修として履修できた世代でした。技術の授業で使う工具を買ってもらったとき、母に「技術の授業を受けることが出来てうらやましい」と言われたことをよく覚えています。
女性の選挙権だって昔は認められていませんでしたし、もっと遡れば男性の中でも高い税金を納めている(つまり裕福な)人だけの権利でしたが、今の私たちの感覚であればそれは明らかに「おかしい」と感じる人の方が多いはず。

そんな感じで今のところ慣習的に何となくそういうものと納得してしまっていることも、冷静に考えてみたら誰かから、もしかしたら自分からあるべき可能性を奪ってしまっているかもしれません。それは例えば「〇〇*4らしさ」という言葉のもとに存在するような、アファーマティブアクションが是正するのはそういうアンバランスです。

性別に限らず、様々な理由でやりたいことが出来ない、やりたいと気付くことすらできないことがなくなる未来が一日でも早く来ることを願っています。

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*1:http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/20.500.12000/4690/1/Vol30-2p201.pdf

*2:とは言え、個人的にはRubyistが地球外に進出したらしたで「太陽系にひとつ」とか「宇宙にひとつ」とかになるんじゃないかなと思っています

*3:どのくらいハードルを感じるかはもちろん個人差があります

*4:性別だったり、国籍だったり、その他いろいろ